その保険って、要る?
「医療保険」って、どうなの?
現在、生命保険各社からたくさんの医療保険が販売されています。保障の内容は商品によってさまざまですが、保障の目的やリスクに対する考え方などに基づいて、慎重にプランを選ぶことが大切です。
実は「家族」を守るためにある
医療保険というと、よく「自分を守るための保険」といわれます。もちろん、その要素も大きいといえますが、いちばん重要な役割は「家族の生活」や、その基盤である「家計」を守ることにあるといえます。例えば一家の大黒柱が長期入院してしまったら、家計は収支両面で厳しい状況に陥ります。また、家庭の主婦が長期入院した場合は、家族の外食が多くなる、必要に応じてベビーシッターやホームヘルパーを頼む、等々の理由で支出が増加する一方、世帯主は看病などのために仕事が制約される可能性もあります。そうなると、やはり収支両面で家計がおびやかされます。こうした事態から家族の生活を守るために、医療保険が役立ちます。
恐ろしいのは脳や神経系の病気
医療保険は「入院1日につき○○円」と入院給付金の日額が定められているとともに、入院給付金の支払限度日数が「1入院あたり○○日まで」と定められています。支払限度日数が多くなるほど保険料は高くなりますが、最近では入院期間の短期化傾向を背景として、「90%以上の入院は60日以内、だから支払限度日数は60日で充分」といった意見が多く聞かれます。しかし、本当にそうでしょうか?確率でいえばその通りでしょうが、病気やケガでいちばん恐ろしいのは入院が長期間になってしまうことです。なぜなら、100日、200日と入院が長期化してしまうと、家計が壊滅的な状況になることが懸念されるからです。例えば、脳や神経系の病気で入院すると、入院期間が長期化する傾向があります。
「起きる可能性は低いが、起きてしまったら重大なダメージを受けることに備える」という保険の基本に基づけば、支払限度日数は120日や180日など長めの設定となっている医療保険を選ぶことをおすすめします。
「日帰り入院」は保障されたほうがよいのか?
かつては「免責期間○日」といった医療保障がほとんどでした。これは、免責期間を超える入院を保障するタイプで、例えば「免責期間5日」の医療保障に入っていて8日間の入院をすると、〈8日-5日〉で3日分の入院給付金が支払われます。ところが、近年では、「日帰り入院」または「1泊2日の入院」から保障する、免責期間のないタイプが主流です。たしかにこのほうが、「入院しても1円も支払われないこと」はありませんし、入院期間が短くなる傾向にあるという最近の医療状況にも対応しているように思われます(ただし、もちろん免責期間のある医療保障に比べれば、同じ保障内容、同じ保険会社であれば保険料は高くなります)。しかし、家計にとって最も深刻な事態は「長期入院となること」です。それを考えれば、「日帰り入院」や「1泊2日の入院」にこだわる必要はないのではないでしょうか。1泊2日程度の入院費用であれば、貯蓄でまかなえるはずですし、少なくとも、現在加入中の医療保険を「日帰り入院が保障されないから」といった理由だけで、違う保険に乗り換えたりする必要はないと思います。
「終身型」か「定期型」か?
医療保険には一生涯保障される「終身型」と、一定の期間で保障が満了する「定期型」があります。もちろん、保障期間以外の条件が同じであれば、「定期型」よりも「終身型」のほうが保険料は高くなりますが、「入院のリスクは高齢になるほど高くなるので、医療保障は“終身”で準備するのが基本」というのが、一般的な保険会社の主張のようです。しかし、これも考え方次第です。いちばんリスクの高い高齢期に保障を確保したいのであれば「終身型」を、保険料を抑えながら現役時代に限定して保障を確保したいのであれば「定期型」を選べばよいのです。大切なのは、目的を明確にしたうえで保障を選ぶことです。
近年、TVなどで医療保険の広告をよくみかけます。なんとなく「医療保険は入って当たり前」的な雰囲気がつくられつつある気がしますが、ムードに流されてはいけません。 病気やケガに対しては「保険」ではなく「貯蓄」で備えるという選択肢もあるはずです。
「入院保障」が基本の医療保険は時代遅れ!?
はじめに確認しておきますが、生命保険会社の医療保険とは、つまりは「入院保険」です。入院日数に応じて入院給付金などが支払われますが、入院しなければどんな重病であっても1円も保険金はおりないものが一般的です。下のグラフでも明らかなように、平均入院期間は年を追うごとに短くなっています。とくに高齢者の平均入院日数は、1975年と比べると実に半分以下になっています。その意味で「入院保障」が基本の医療保険は、もはや時代遅れといえるのではないでしょうか。
なぜ、入院期間はどんどん短くなっているのか?
年を追うごとに入院期間が短くなっている理由は、もちろん医療技術が進化して病状の回復スピードが早くなり、早期の退院が可能になってきたという側面もありますが、最大の理由は実は「政策」です。少子高齢化を背景にして日本の社会保障費は膨らみ続けており財政を圧迫しています。そこで政府は、社会保障費の約3分の1を占める医療費の伸びを適正化するため、費用のかさむ「入院治療」を、相対的に費用の安い「外来治療」にできるだけシフトしていくことを目指して、在宅医療を推進するためのさまざまな政策を打ち出しています。「医療制度改革」のなかでも平均入院期間の短縮化は明確に打ち出されています。入院期間が短くなっているのは「国の方針」なのです。少子高齢化の流れが改善されない限り、この動きは止まりそうにありません。つまり、入院期間はこれからもますます短くなっていく、そして「入院保険」タイプの医療保険の存在意義は、ますます小さくなっていくと考えられます。
「通院」を保障する医療保険もあるが…
「入院から外来へ」という時代の流れを受けてか、最近では退院後の「通院」を保障する医療保険もちらほら出てきました。しかし、これは「通院日数」に応じて給付金が支払われるもので、「療養期間」の長さに応じたものではありません。通院給付金が通院1回あたり5,000円の場合を考えてみましょう。例えば、6ヵ月間自宅療養したとしても、その期間中の通院が月に1回だけだったら、〈5,000円×6回〉の3万円しか支払われないことになります。これでは、療養期間中の生活保障にはなりません。ほんとうに必要な保障とは、入院や通院の「日数」にかかわらず、療養期間が長引いてしまった場合の収入の減少などに対応する保障なのではないでしょうか。
医療保険に入らなくてもすでに守られている
日本は先進国のなかでも健康保険制度の整備が進んでいる国といえます。健康保険制度には、医療費の自己負担額を一定程度までに抑える「高額療養費制度」もあります。さらに、サラリーマンの場合は、病気やケガで働けないとき、入院や通院の有無にかかわらず最長1年6ヵ月にわたって収入の3分の2が「傷病手当金」として支給されます(保険のキホン「病気やケガに備える保障」参照)。こうした制度に守られていることを考えれば、月々保険料を支払って医療保険に入る必然性はないのではないでしょうか。そのぶん、貯蓄を充実させることをおすすめします。
自営業の方の場合は考えてもよいが…
ただし、「傷病手当金」や「障害厚生年金」のない自営業の方は、自助努力で病気やケガに備えることを検討したほうがよい場合もあります(保険のキホン「長期療養が必要になったときの社会保障のイメージ」参照)。なぜなら、自営業の場合、病気やケガで働けなくなったとたんに、収入が一切途絶えてしまう可能性があるからです。しかし、ファーストチョイスは、「入院保障」タイプの医療保険ではなく、入院の有無にかかわらず病気やケガで働けない期間の生活を保障する「就業不能保障保険」や「所得補償保険」、または特定の病気になったときに一時金が支払われる「がん保険」や「三大疾病保障保険」ではないかと思います。